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コラム データドリブン経営をマークする#1

BIの課題解決 ≠ 経営分析の実現

陥りやすい経営分析の誤解

自社の経営分析に不満を感じている経営者は意外に多いようです。 経営分析と一言でいっても、その目的や分析手法は様々ですが、大きくは定量分析と定性分析を行い、たとえば投資家に向けた開示の為の統計や次の戦略を立案するための課題分析をおこなうのが一般的です。

いずれも現状と未来を正しく捉えることがポイントになりますが、中でも、後者の戦略立案のための経営分析、いわゆる「データドリブンな経営判断をするための分析」に対して、多くの経営者が不満を口にします。そして特徴的なのは、その不満をいつまでも解消できずにいることです。

解決に至らない要因は様々ですが、目につくのは「課題を取り違えてるために解決できない」というケースです。そこで本稿では、なにを取り違えているのか、そのよくあるケースをご紹介します。

よくある課題傾向

まず、なぜ経営分析が必要なのかというと、それは言うまでもなく「安定的な成長が見込める経営をおこなうため」です。

そこで、会社の業績や財務状況、さらに問題点を明らかにするために、売上高や利益、資産や負債といった様々な数値情報を集計し、会社の現状を可視化したレポートを作成します。いわゆるBI(Business Inteligence 以下、BI)のプロセスを経て、問題に対処するための対策を分析によって導き出し、経営者はそこから最適な意思決定をおこないます。

つまり、経営分析のゴールは「最適な意思決定」であり、アウトプットには経営者が意思決定をするに足りる判断材料が揃っていなくてはなりません。

ここでよく見受けられるのは、BIの工程に膨大な労力と時間を費やしているにもかかわらず、最適な意思決定に至らないということです。

一般的に、経営分析のためのBIの作業は、①収益性(利益額または利益率と資本・資産との関連による資本の効果的な活用状況)、②安全性(債務弁財能力)、③生産性(経営資源であるヒト・モノ・カネに着目した価値創出の効率性)、④成長性(企業規模がどのように拡大したか)をレポートにまとめ、会社の現状を可視化することを指します。

その際に、必要なデータを各システムから集約・加工し、レポートの形にまとめるわけですが、その作業のほとんどをExcelで対応しているために、時間がかかり、ミスも多く、膨大な手間と品質低下を招くという問題がおきています。 作業の中には一部、BIツールを利用する場合もありますが、BIツールの機能不足や多機能であっても逆に使いこなしていないため、新たにExcelの補完作業が発生していることもあります。

また、独自の集計システムを構築している場合は、事業成長のスピードにシステム改修が追い付かず、経営分析に有効なアウトプットに至らないというケースも多いようです。 これらの問題に対応するために、BIは煩雑で従属性の高い作業を強いられることなります。そしていつしか、BIの効率化や質の改善が「経営分析」の課題になっていきます。

BIの課題解決が経営分析を実現するとは限らない

確かにBIの効率化と質の改善は重要です。ですが、いくらBIの問題を解決しても経営分析が正しくおこなわれるとは限りません。これは、経営分析をプロセスで整理するとよくわかります。

経営分析の大まかな流れは、PDCAをよりスピーディに回すためのマネジメントサイクルとして知られている「STPDサイクル」に展開すると、わかりやすいでしょう。 STPDは、①事実を知る(See・・問題の本質を捉える)、②対策を考える(Think・・最適な解決策を立案する)、③決定する(Plan・・実行する策を決定し戦略化する)、④実行する(Do・・実行指示を出す)の4つのプロセスを踏みます。

経営分析はBA(Business Analytics)と意思決定(Decision Making)のプロセスによって、最善の判断とその結果に対する新たな策を検討するサイクルを回します。先述した「経営分析のゴール」は最適な意思決定をする「P(Plan)」となり、そのための「S(See)」と「T(Think)」が経営分析そのもののプロセスとなります。この「S(See)」と「T(Think)」で、たとえば低い投下資本利益率(ROIC)を自己資本利益率(ROE)が高い企業買収で改善するといった財務戦略や、高原価体質の事業のBPM強化といった業務最適化施策がいくつも立案されるのです。

そして、課題視されているBIは、STPDサイクルのスタート地点となる「S(See)」、正しく問題の本質を捉えるための「現状を可視化する」準備工程に位置づけられます。

この準備工程であるBIに求められるものは、「S(See)」のための「事実を知る」レポートを作成することですから、BIのゴールは「S(See)」であり、経営分析のゴールである「P(Plan)」ではないのです。 そのため、いくらBIの負担を軽減しても、経営分析そのものの実現に至るとは限らないのです。 「せっかくBIツールを導入して、スピーディでミスのないレポートを作成できるようになったのに、相変わらず経営者が立てる戦略は、根拠のない売上アップとコスト削減の二者択一になっている」といった話をよく耳にするのは、このためです。

単一の事業を展開しているうちは、BIのレポートだけでもおそらく経営分析に有効でしょう。 ですが、会社の規模が拡大し、事業が多角化されていけば、事業を跨いだ経営資源の適正配分や各事業の強みと弱みを見据えた戦略を立案しなくてはいけませんから、経験や勘は通用しなくなります。ですから、気を付けなくてはいけないことは、「BIのプロセスで経営分析の改善の手を止めてはいけない」ということです。

尚、誤解を恐れずに言えば、もっとリソース(コストや人員)を投下して、精度を高めていくべきBIの目的は、経営分析よりも他にあります。大量のデータをもとに視覚的にわかりやすく、現状と過去の状態を可視化することを得意とするBIツールの特性を活かし、例えば企画・マーケティング機能における需要分析・予測、現状分析・評価、課題に対する原因・要因分析、現場部門における生産実績把握、販売促進計画立案、課題に対する原因・要因把握などです。 これらの分析は各社固有の指標と業態特性に応じた分析軸が必要になりますので、柔軟性の高いBIツールで、独自性のある分析を可能とする環境の整備が望まれます。

経営分析の要

経営分析が機能するかどうかは、「S(See)」と「T(Think)」次第です。

仮にBIで十分なデータが揃わなくても、いまあるデータから事業の特性(強み・弱み)や市場動向、競合の戦略といった情報に留意して、できるだけの問題特定と解決策を見出せばよいのです。 このプロセスが正しく機能すれば、おのずと必要な情報は絞られ、BIの質も向上するでしょうし、なにより経営分析そのものがより高度なものになっていくでしょう。

ただし、問題は「S(See)」と「T(Think)」を担えるノウハウの確保です。 手早くこの問題を解決したいのであれば、経営分析に精通した、いわゆる分析人材を確保すればよいのですが、分析人材が不足している現状ではそれも困難です。

ある統計では上場企業の平均年収をスタートアップ系企業のそれが上回ったというデータがあります。その原因の一つに上場企業でCFOや経営企画に携わるデータ分析に精通した人材を、スタートアップ系企業が高額な賃金で引き抜いているからとあります。それだけ、分析人材のニーズは高く、一方で不足していると言うことです。

もし、あなたが経営者の立場でデータドリブン経営を急ぐのであれば、改めて経営分析の改善は「S(See)」と「T(Think)」に着目し、そこに戦略的IT活用を検討してみてはいかがでしょうか。 経営分析のベーシックなロジックは、マーケティングや製造効率・販売促進のそれよりも確立されたものですから、ITで実現することは分析人材を確保するよりも現実的です。

もし、あなたが経営分析のレポート作成や、分析そのものをおこなう立場であれば、今のBIから一歩踏み込んだツールを利用して、経営者の求めるアウトプット作成に、いち早く着手してみてはどうでしょうか。これまでのレポートが、経営支援の要素を高め、より付加価値のあるものに変わるかもしれません。

取材・文 CREO Analytics-LABO